「クルドの子どもたちにも夢を持って、能力を伸ばしてほしい」〈インタビュー:小室敬子さん/クルド日本語教室〉|VOICE

インタビュー 

埼玉県川口市「クルド日本語教室」主宰 小室敬子さん

「クルドの子どもたちにも夢を持って、能力を伸ばしてほしい」

埼玉県川口市やその周辺には約2,000人のクルド人が暮らしているといわれます。祖国での差別や迫害から逃れて日本に来た人たちですが、ほとんどが難民認定申請中、あるいは在留資格を失った「仮放免」の不安定な状況です。

そんなクルドの人たちが「日本のおばあちゃん」と頼りにする女性がいます。6年前から「クルド日本語教室」を主宰し、クルド人に寄り添ってきた日本語教師の小室敬子さん(63)です。クルド人と関わるようになったきっかけや思い、クルド人の日本での暮らしや子どもたちが抱える問題についてお聞きしました。

プロフィール

小室敬子(こむろ・たかこ)/日本語教師

埼玉県川口市在住。ボランティアでクルド人女性に日本語を教えたことがきっかけで、2016年に「クルド日本語教室」を開設、クルド人に学ぶ場を提供している。2022年にNPO法人メタノイアが開設した「川口芝クルド日本語教室」でも日本語を指導。川口市立高校定時制日本語非常勤講師。

1.クルド人との関わり

「もう自分でやってしまおう」と教室立ち上げ

―クルド人と関わるようになったきっかけは?

13、4年ぐらい前から、街にクルド人が増えてきて、どういう人たちなのだろうと興味を持っていました。それで7年ぐらい前に「日本クルド文化協会」という団体が日本語ボランティアを募集していたので、期限付きで初めてクルド人に日本語を教えました。クルドのお母さんが対象だったのですが、ほとんど日本語ができない方ばかりで、このまま放っておけないし、子どもや男の人だって日本語は必要なはずです。それで、もう自分でやってしまおうと翌年「クルド日本語教室」を始めました。

クルド日本語教室

―「クルド日本語教室」はどんな教室ですか。

日本語だけでなく、学校の宿題や資格試験の勉強など、それぞれが自分に必要な勉強をしています。「クルド日本語教室」は週に2回で、NPO法人メタノイアさんの「川口芝クルド日本語教室」でも週に1回教えています。いつも来る子どもは10~18人ぐらいですね。

こうした教室には、地域や学校で孤立しがちなクルドの人たちのコミュニティの役割があると思うし、日本語以外のことを身につけたり学んだりする場にもしたいと思っています。畳の上に靴のまま上がる子がいれば「こら~」と注意するし、近所の子どもを見ているような感じです。

―教えているのはどんな方ですか。

大学や大学院で移民難民などをテーマに研究しているボランティアさんが多いです。千葉や神奈川といった遠方から来る人が多くて、近隣の人はほとんどいません。クルド人の若者の中には、仕事にも学校にも行かないでショッピングセンターをうろついている子もいて、あまりいい印象を持っていない地元の人は少なくないのが現実です。

日本人よりクルド人といる時間が長い

―教室以外でも教えていらっしゃるとか。

午前中や夜はオンラインで、日本語能力検定試験や学校の定期テストの対策などもしています。午後は地元の定時制高校で外国人生徒に日本語を教えています。クルド人生徒も14人います。考えてみると、日本人よりクルド人といる時間の方が長いですね。

―クルドの人たちからはどう呼ばれているのですか。

子どもたちからは「先生」ですが、「こむろ〜」と呼び捨てしてくる子もいます。まあ楽しそうに言っているからいいですが。あと、お母さんたちからは「日本のおばあちゃん」と呼ばれます。クルドでは10代で結婚する女性が多くて、実際にクルド人のおじいちゃんおばあちゃんも若いので仕方ないです(笑)。

―相談もたくさんくるそうですね。

毎日のようにあります。例えば日本に来たけど、子どもを学校に通わせるために何をしたらいいのかわからない。だから周りのクルド人に聞いて、私に辿り着いて、人づてに私に連絡が来る感じです。それで一緒に市役所に行きましょうかと。彼らの場合、入学するには学校で教頭と面談が必要です。面談に同席して「親御さんも頑張らせると言っているので大丈夫だと思います」と伝えたりもします。制服や学用品など必要なものを一緒に用意することもあれば、登校初日の子に付き添ったこともありました。あとは、学校からのお知らせの内容がわからないとか、国民健康保険料や税金のことわからないとか、本当にいろいろです。

―日本語ができない方とはどのようにコミュニケーションを?

彼らはクルド語の他にトルコ語もできます。私も少しトルコ語を勉強しましたが、電話は難しいので、Facebookのメッセンジャーや、LINEを使って文字で伝えてもらい、翻訳機能も使ってなんとかしています。いろいろな相談を受けているうちに、Facebookの友達になっているクルド人は480人に増えていました(笑)

―そこまでできるのはどうしてですか。

たまたまクルド人と出会って、私も異文化に興味もあって、そこに自分にもできることがあるならとやり始めたことです。支援しているというより、もっとフラットな関係ですね。実際、助けるだけでなく助けられてもいます。私がコロナの濃厚接触者で外出できなくなった時は焼きたてのパンを届けてくれた人もいたし、買い物を代行すると言ってくれた人もいました。

みんなができることをちょっとずつやる社会になるといいですね。アメリカのボランティア精神のような感じで。言葉のハードルや宗教の問題もありますが、地域に住む外国人と日本人がもう少し歩み寄れたらいいのにと思います。

小室敬子さん

2.クルド人の日本での暮らし

修学旅行にも入管の許可が必要

―クルド人が日本に逃れてきた背景は知っていたのですか。

最初は知りませんでした。でも、クルドのお母さんたちに「家にご飯食べに来て」とか「お茶しに来て」と誘われるままにお邪魔するようになりました。彼らが話すクルド語やトルコ語が全然わからなかったのですが、1年くらい経った頃から、国から逃れてきた背景や、在留資格の問題がわかってきました。

クルドの男性同士が、親戚が政治的にまずい写真を持っていたら、イスタンブールの空港で見つかってしまったという話をしているのも聞いたことがあります。まずい写真というのは、日本で撮った三色のクルドの旗が写っている写真だったようです。10年ぐらい前は、街の中でクルド語を話すことさえだめだったとか。それと、トルコには徴兵制があるのですが、クルド人兵士にシリアのクルド人自治領への攻撃に参加させたり、戦線でも一番に前に行かせたりするという話をしている人もいました。

―彼らはなぜ日本を選んで来るのですか。

クルド人の大半はトルコから来ています。日本とトルコは友好関係があり、観光などを目的とする3カ月以内の滞在ならビザなしで来ることができます。先に来た親戚や知人を頼ってくる人が多いようです。

―日本に来てからは?

難民認定申請をして、認定中は特別な在留資格をもらいます。その段階では就労や健康保険加入もできます。トータルで5、6年は在留資格がある人が多いようですね。でも不認定となると在留資格を失い「仮放免」になります。

川口市周辺には2000人ぐらいクルド人がいるようですが、500人ぐらいが仮放免じゃないでしょうか。仮放免だと、いつ入管施設に収容されるかわからないし、就労はできず、健康保険証も持てません。かといってトルコに帰ればどんな目に遭うかわからない。でも、日本政府はクルド人を難民認定しようとはしていません。

―仮放免の人は県外に出られないとか。

川口の場合、川を越えるとすぐに東京都ですが、入管の許可なしには県外に出られません(入管に出頭するときは例外)。子どもを修学旅行に行かせるにも許可が必要で、頼まれて私も書類を用意したことがあるのですが、学校のしおりに日程表、ホテルの名前、地図まで必要でした。「修学旅行のため」の1行で済まないのかなと。クルドの人たちを見ていると、すごく普通に暮らしている面と、特別な面と両方があります。

クルドの方々が"出頭"する東京入管(東京出入国在留管理局)の庁舎

仕事も生活もコミュニティのなかで支え合う

―クルド人コミュニティは繋がりが強そうですね。

クルドの人はコミュニティの中で懸命に生きています。仕事もそうですが、買い物でもどこかの野菜が安かったとなれば、あっという間に口コミで広まって、みんながその八百屋に行くんです。

心配なのは、誤った情報も伝わりやすいことです。例えば新型コロナのワクチンも、女の子がワクチンを接種すると不妊症になるというデマが広がりました。お母さんたちは日本語で話ができたとしても読み書きはできないので、日本のニュースも誰かがトルコ語に訳したもので知ります。日本で地震があっても、それをトルコ経由で知るそうです。

―クルドの人はどんな仕事を?

日本人と結婚したクルド人が解体の会社を設立してクルド人男性を雇ったりして、クルド人同士助け合っています。日本語ができなくてもできるケーキや弁当を作る工場で働くお母さんたちもいます。かすかにでも日本語がわかる人が指示を聞いて、それを周りに知らせているみたいです。ケーキ工場はクリスマス前となると残業続きで、それでも冷凍庫みたいな寒い場所で頑張っているし、弁当工場で弁当にエビを入れる作業をしている人は、エビの目が自分を見ているように感じるらしく「小室さんエビ怖いよね」と言いながら頑張っています。

解体の仕事もそうですが、彼らは日本人があまりやりたがらない仕事をしてくれていて、それで私たちの生活は成り立っています。クリスマスも楽しめるし、朝早くにコンビニに行っても弁当が買える。そういうことをもっと多くの人に知ってほしいですね。

3.クルドの子どもたち

高校進学は半数程度

漢字の読みを勉強するクルド人の子ども

―クルドの子どもたちを見てきてどう感じていますか。

これまでに直接関わった子どもは60人ぐらいいますが、日本の子どもより素直で素朴なように感じます。あまりひねくれた感じがないというか。

ただ、勉強は大変です。例えば小3で来ると、周りがもう漢字を400個ぐらい習っているわけですから、もうクラスで何をやっているのか全然わからない。相当頑張る必要があるのですが、危機感がない親が少なくないです。

―勉強を重視していないということですか。

クルドの人たちはあまり勉強に重きをおいていないようだし、おじいちゃんおばあちゃんの世代は、学校に行ってなかったという人もいます。親はどうしても自分たちが辿ってきた物差しではかりがちです。学校で勉強しているから、家では勉強しなくていいと考えている人が多い。クルドのお母さんは宿題もみないし、子どもに「わからないし」と言われると「じゃ日本語教室に行きなさい」と。

―価値観の違いでしょうか。

そうですね。クルドでは17歳で婚約、18歳で結婚、19歳で子どもを産むことが多いそうです。結婚して2年経っても赤ちゃんができないからと、まだ20歳なのに不妊治療を受けさせたいという相談もあります。でも、子どもたちは日本で育っていて、日本の価値観にもなじんでいます。進路のことも含め親とぶつかりやすく、伝統的なクルドの考え方と、日本の価値観という2つの世界を行ったり来たりして、苦しんでいる子が多いです。

中学3年生が短冊に書いた、七夕の願い事

―高校や大学への進学は?

高校には半分ぐらいの子しか行っていません。中学校から行かなくなる子もいるし、親も行かなくていいという感じです。日本に来た時は在留資格があったのに、中学生や高校生になって仮放免の状態になる子も多くて、それでポキッと折れてしまうことも。仮放免だと在留資格がないわけですから、専門学校や大学もなかなか受け入れてくれないですね。

私はそれでも一人でも多く専門学校や大学に行って、可能性を広げてほしいと思います。私が小論文を見ていた生徒が去年の秋にAO入試で大学に合格しました。大学や専門学校に行けば留学ビザが出る可能性も出てきます。ただ、そこまで学力を上げられる子はなかなかいませんね。

―クルドの子どもたちに思うことは。

高校は卒業してほしいと思います。それに英語も頑張ってほしい。今後もし在留資格制度が変わったら、日本にいられなくなって、他の国に移らなくてはいけなくなることもあるかもしれません。その時にもきっと英語は役立つと思うので。

私は子どものころ、ちょっと努力したり、学校で賞状をもらったりすると褒められてうれしかった記憶があります。クルドの子も何か努力して身につけられれば、それが日本語だろうが、プログラミングだろうが、自分の人生にプラスになると思います。とりあえず入り口は日本語だけど、地道に努力すればいろいろな方向に花が開くと思うし、それを実感してほしい。それは日本の子もクルドの子も同じです。私はそのコツコツ頑張るところをサポートしたいし、夢や能力があるなら、それを伸ばしていきたいです。

そして、クルドの子どもたちが、もう少し未来に希望を持てるように、政府には、入管制度がこのままでいいのかよく考えてほしいですし、もっと多くの人にクルドの人たちのことを知ってほしいと思います。クルドの子どもたちやその家族を、みんなで支えていけたらいいですね。

〈インタビュー/記事執筆〉

金子恵妙(かねこえみ):ライター、日本語教師、社会福祉士
富山県出身。公務員、ブロック紙記者を経てライター。人と人をつなぐ「言葉」への興味から日本語教育にも関わる。現在は、国内で日本語を学ぶ人たちの暮らしに視点を広げ、多文化共生をテーマにインタビュー記事などを書いている。

〈クラウドファンディング2022〉8/2(火)10:00スタート!

NPO法人メタノイアは、本記事でインタビューに答えて下さった小室敬子さんと共催する埼玉県川口市のクルドの子どもたちの日本語教室「川口芝クルド日本語教室」の運営費用を募るため、クラウドファンディングに挑戦します。

どうぞ、下記ページをご覧ください。

ご寄付による参画と、そしてSNSを通じたシェアをいただければ幸いです。

 

クルドの子どもたちの学びを応援するため、ぜひご協力をお願いいたします!

日本語という「ことばの壁」にさえぎられ、孤立のリスクに直面している子どもたちがいます。

今年の4月、私たちNPO法人メタノイアのメンバーは、埼玉県川口市に暮らす「クルド人」難民の子どもたちと出会いました。日本語の力が足りないことで高校進学をあきらめる子どもが跡を絶たないと聞き、地元ボランティアと協力して翌月から小さな日本語教室を開くことにしました。

 一方、時期を同じくして、ロシアの軍事侵攻が激しさを増し、ウクライナから避難民として日本に逃れてきた方々とも出会うようになりました。故郷を破壊された20代や10代の若者、そして幼児を含む子どもたちに、日本社会で孤立させないための緊急支援として、私たちの強みである日本語教育を始めることにしました。 

言葉には、人と人をつなぐ力があります。 ・・・

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クラウドファンディング賛同者で、映画『マイスモールランド』監督の川和田恵真さんより応援メッセージをいただきました!

私の監督作「マイスモールランド」では、日本で難民申請をしながら暮らすクルド人の家族を描いています。

取材では、クルド人の子どもたちにたくさん出会いました。