Metanoia NEWS 2025冬『人生が壊されていく、クルドの子どもたち』

Metanoia NEWS 2025冬『人生が壊されていく、クルドの子どもたち』

認定NPO法人メタノイアのニュースレター『Metanoia NEWS 2025冬』を発行しました。

PDFでダウンロードできるほか、以下のとおりWeb記事形式でもお読みできるようにしました。

どうぞご一読ください。

人生が壊されていく、クルドの子どもたち

今年の夏、私たちの日本語教室に通っていたクルド人中学生の父親が、何の前触れもなく入管に収容され、間もなく出身国のトルコに強制送還されてしまいました。突然引き離され残された子どもたちと母親は、涙を流し、混乱していました。その後、残された母子もやむなくトルコへと帰って行きました。サッカーの部活動も高校進学も諦め、友だちとも別れることになって、その中学生は泣きながら言いました。

「ぼくの人生がむちゃくちゃに壊された」

日本政府が打ち出した「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」の影響です。しかし、こんなことをして日本は本当に「安心安全な良い社会」に向かっているのでしょうか?

皆さまもご承知のとおり、昨今のSNSや政治の世界では、クルド人をはじめ外国人を貶めて人気を得ようとする排外主義が流行しています。その足元で痛みに堪えながら、それでも前を向き、学び、人生を切り拓こうとしている子どもたちもいます。私たち大人は、いま何をすべきなのか。 本誌を通してご一緒にお考えいただければ幸いです。

Mutluわらび  (クルドの子どもを中心とした日本語教室)

  • 開講日 毎週月〜水・金曜日 夕方に子どもクラス、日中は成人クラスを開講  
  • 場 所 埼玉県川口市 蕨(わらび)駅近く
  • 参加者 約40名 5〜17歳の主にクルドや中国にルーツをもつ子どもとその家族
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クルドの子に向けられた「好きじゃない」

あるクルド人(トルコ出身)の小学生。日本に来て数年がたち、やっと日本語でコミュニケーションが取れるようになってきたところです。そんな子がある日、すこし元気が無かったので、母語ができるスタッフと一緒に話を聴いてみると、次のようなことを語ってくれました。

  日本人の同級生とケンカした時、「トルコ人、好きじゃない」と言われた。

  先生に伝えたけど「分かったから、授業に集中して。あとで話しとくから」と言うだけ。

  相手を真剣に怒ってくれない。それで泣いて、もう学校をやめたくなった。

  でも泣いたら泣き虫と言われるし、泣かなかったら伝わらないし。どうしたら良いかわからない。

  SNSを見ても、「クルド人は悪い」「クルド人は犯罪者」みたいなことばかり書いてあって、

  正直に言ってすごく嫌。お母さんもSNSを見てて、嫌と言ってる。

  非正規滞在の私たちはいつ強制送還されるかわからない。だから、 日本にいられる間は先生や

  みんなと仲良くしていたいんだけど...。

 

そんな中でも、この小学生の子どもは、私たちの教室に来ると楽しそうな笑顔を見せてくれます。同じルーツの友だちや先生と会ってたくさん話すことで、心を少し解放できるからかもしれません。

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日本語教室はもう、安全ではない

先日、クルド人生徒の親子が、日本語教室からの帰りに自分たちを盗撮している者を見つけました。最近、クルドの方々が盗撮され、SNSに無断で投稿される被害があまりに多いため、心配になり声をかけると、相手は激昂。パトカー複数台が来て警察が間に入り、守ってくれました。相手は警官にも暴言を吐いていましたが、幸い、その親子が身体的な暴力を振るわれることはありませんでした。 しかし、子どもは、おびえて泣いていました。 保護者も取り乱していました。お母さんは言いました。

「ぜったい、この子の心から、今日のことは消えないよ」。

実は、こうした被害はクルドの子どもたちの周りで、もはや珍しいことではありません。今回はたまたま私たちの日本語教室が関わる場面で起きた、というだけでした。 どうして、地域でただ暮らしているだけの子どもたちが、暴言や盗撮におびえながら過ごさなければならないのか。そんな社会は間違っている。 しかし、現実は、急速にそちらの方へ傾いています。

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七夕の願いごと

今年の7月、日本語教室の授業で七夕のアクティビティをしました。あるクルドの子が短冊にこう書きました。

「やさしい人に   なれますように」。

いわく、やさしい人とは「誰かが転んでたら助けられる人」。当時、おりしも参議院選挙期間の最中で、外国人憎悪の言葉をばら撒く候補者が増え続けていた時でした。クルド人である彼女も、そのターゲットの真ん中にいたはずです。 本当に、クルド人がいると「治安が悪くなる」のでしょうか?人を攻撃して涙を流させている人たちが立法者になると、「治安がよくなる」のでしょうか?

私たちは、誰かがつまずいて転んでいたら助けてくれる人がいる社会でありたいと願います。 このクルドの子のように、やさしい心を持った子どもたちを大切に守り、育てていけば、それはきっと実現すると思います。だから、この日本語教室をずっと長く続けていきたいと思います。この短冊を書いたクルドの子の願いのように、私たちも「やさしい社会に  なれますように」と願いながら。

本誌をお読みの皆さまには、いつもこの日本語教室の活動をお支えいただき、改めて感謝申し上げます。

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子どもたちの教室づくりに参画する

マンスリーサポーター募集キャンペーン特設ページはこちら
https://metanoia.or.jp/donation/lp/index.html

連続WEBセミナー  『クルドの子の「命」を守る』

  • 実施日時 2025年9月17日〜9月26日 全4回/各回60分    オンライン
  • 参加者  当日参加:延べ375人   (アーカイブ視聴を含む申込者:585人=2025/11/22時点)

埼玉の川口市近郊に暮らす、クルドの子どもたち。その「命」がいま、危機にさらされています。

インターネット上では真偽不確かな情報ばかり広がり、正確な情報が得られにくい中、クルドの若者自身や支援者、そして専門家の方々に語っていただく連続セミナーを9月に実施しました。

分断じゃないほうの社会へ、私たちは、どうすれば向かうことができるのでしょうか。

アーカイブ動画の配信をしています。  ご覧いただき、ぜひ、ご一緒に考えられたら幸いです。

第1回 メルバン さん 「クルドの子どもたちの人生」

埼玉県に暮らすクルド人の若者。  約15年前に来日した元・仮放免者(難民申請者)。 現在はメタノイアの日本語教室スタッフ(バイリンガル・コーディネーター)。

クルドの子どもたちの「生の声」が紹介されました。以下、その一部を抜粋します。

  • クルド人がSNSで悪く言われている投稿が拡散していて、人に自分の出自を言うのが怖くなって「私はトルコ人」と言っているクルド人の学生。本当は自分の民族に胸を張っていたいんだけど・・
  • 友だちに悪口で「やっぱりあんたはクルド人だね〜」と言われて、嫌な気持ちになった高校生。
  • 入管から父を強制送還されて「人生がむちゃくちゃに壊された」と嘆くクルドの中学3年生。友だちの前では明るく気丈に振る舞っているが、人目のないところで落ち込んだ様子を見せている。

第2回 神原元 さん 「クルドヘイトスピーチから子どもを守る」

弁護士、街宣活動差止等請求事件(「クルドヘイト裁判」)原告訴訟代理人。 自由法曹団常任幹事。武蔵小杉合同法律事務所主宰。

現在係争中の「日本クルド文化協会」が原告となった「クルドヘイト裁判」(街宣差止訴訟)。その提訴の経緯と意図、論点などを概説いただきました。また、国のヘイトスピーチ解消法や、神奈川県川崎市の罰則付きヘイトスピーチ禁止条例などに至る立法に向けた運動も間近で見てこられた神原弁護士から、以下の「教訓」を示していただきました。

 〈川崎における闘いの教訓〉

  1. 裁判、立法、運動。この3つの連携が必要。できるだけ広い立場の市民を巻き込む。
  2. 被害者だけの運動にしない。加害者である「日本人」こそ正面に出て運動する。
  3. 「差別はいけない」このスローガンは絶対に譲らない。

第3回 髙谷幸 さん 「非正規滞在・仮放免の子どもと強制送還」

東京大学大学院 准教授(専門:社会学・移民研究)。 NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク 運営委員。

非正規滞在のこどもが、帰責性なしに存在そのものを「不法」とされ、行ったこともない国に「強制送還」される理不尽。子どもであっても「非正規滞在である以上、強制送還されるべき」という批判について、どのように反論すればよいかを示唆いただきました。

『子どもの権利条約』(国際法)はもとより、2024年施行の『こども基本法』(国内法)にも着目すべきとのことです。その条文は、主語が「全てのこども」とされています。憲法や教育基本法のように「国民」ではありません。そして、国籍や在留資格の如何を問わず、「基本的人権が保障」され、「差別的取扱いを受けること」なく、「教育を受ける機会が等しく与えられる」と定められています。

すなわち、非正規滞在の子たちが健康保険に入れなかったり、進学を諦めたり、生まれ育った日本から「出て行け」と入管から強制されるようなことは、同法に反すると考えられる、とのお話でした。

第4回 温井立央 さん 「隣人としてのクルド人」

「在日クルド人と共に」代表理事。 2021年12月設立。 2016年から在日クルド人と関わり始める。

前半はクルディスタン(トルコ等いくつかの国にまたがるクルド民族の地域)の歴史や現状、難民認定制度の問題点などを概説。後半は偏見に基づくヘイトクライムの実情や日本語教室の取り組みについて語っていただきました。

多数のボランティアと共に運営されている同団体の日本語教室。その活動の趣旨を、次のように語られました。

「人と人が出会って、交わる場をつくりたい。それがヘイトをなくすためにできること。地道ですけど。」

「差別から、子ども達を守る実践講座」

  • 実施日時 2025年9月5日(金)  20:00〜21:00 | オンライン
  • 参加者  当日参加:211人    (アーカイブ視聴を含む申込者:653人=2025/11/22時点)

特定の属性に基づいて人を線引きし、優劣をつける言葉を公の場で耳にする機会がかつてなく増えています。そうした言葉は大人だけでなく、子どもたちの間にも届き、日常会話や行動に影響を与えます。

同じ言葉を、もしも身近な子どもが口にしたら。その言葉を受けて、傷ついているかもしれない子どもが目の前にいたら。私たちは、どう受け止め、どんな行動がとれるでしょうか。 共に考えるためのオンライン講座です。

アーカイブ動画の配信

目の前で子どもに対して差別的な言動が行われてしまった時、居合わせた大人はどんな行動を取るべきか? 上記講座で講師を務めてくださった市川さん、下地さん監修の元、下のポスターを作成しました。

ダウンロードして、ぜひご活用ください。

多様なルーツをもつ方々と共に

多様なルーツをもつ子どもやその家族の方々、そして志を同じくする仲間との新たな出会いに日々恵まれています。実施プログラムの一部をご紹介いたします。

竹の塚子どもの日本語教室

  • 開講日 毎週月〜土曜日 平日は夕方のみ/土曜は終日  
  • 場 所 東京都足立区西竹の塚(当法人本部)
  • 参加者 約70名 外国にルーツをもつ 4〜17歳
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王子子どもの日本語教室

  • 開講日 毎週土曜日 午後 
  • 場 所 北とぴあ(東京都北区の公共施設)
  • 参加者 約30名 外国にルーツをもつ 4〜15歳
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はるみ子どもの日本語教室

  • 開講日 毎週木曜日 夕方 
  • 場 所 はるみらい(東京都中央区の公共施設)
  • 参加者 約5名 外国にルーツをもつ 6〜12歳

ウクライナ避難者伴走支援・日本語レッスン

  • 開講日 随時 
  • 場 所 埼玉県・東京都およびオンライン
  • 参加者 約10名 ウクライナ避難者の小学生〜成人
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オンライン日本語クラス

  • 開講日 随時
  • 場 所 オンライン
  • 参加者 約40名 外国にルーツをもつ幼児〜成人

子どものための日本語教育研修(子ども初任研修)

  • 開講日 毎月1〜2回(スクーリング・実習)
  • 場 所 オンライン
  • 参加者 約100名 日本語教師有資格者(子どもの日本語教育初任者)

子どもたちの教室づくりに参画する

この記事を読んでくださり、ありがとうございました。

私たちNPOメタノイアは、
日本社会のなかで差別と抑圧に直面している子どもたちに、
学びのための場、安心して自分のままでいられる場を提供することを目指しています。

でも、それだけでは足りません。

社会全体の空気を変えていく。
あきらめず、出会いと連帯を広げていく。
私たちの活動はそんな「ムーブメント」でもあります。

ヘイトスピーチがSNSから街頭にまで蔓延し、人の心が傷だらけにされる時代だからこそ、人と人が、顔を合わせてつながることに意味があると思っています。
会って、しゃべって、笑って、また会おうねって言い合える人のつながりを増やしていく。
それが、今この時代に私たちが選べるもっとも強い抵抗の手段だと思っています。
だから、どうか、このムーブメントに、マンスリーサポーターとしてご参加いただけませんか。

月1,000円から、ご参加いただけます。そして、私たちメタノイアは、「認定NPO法人」という公益性の高い活動をする法人として行政に認められた団体です。

この「認定NPO」に「寄付」をしていただくと、寄付者の皆さまが税制優遇を受けられて、寄付金額から最大およそ50%、半分近くが皆さまに還付される仕組みとなっています。

したがって、実質、毎月580円あまりからサポーターになっていただくことができます

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皆様、ぜひこの運動に、ご参加ください。

そして、「ぶんだん、じゃないほうの、しゃかい」を、皆さんとご一緒に実現できたらと願っています。

マンスリーサポーター募集キャンペーン特設ページはこちら
https://metanoia.or.jp/donation/lp/index.html